動物介護士が解説|犬の認知症を治すことはできる?治療法やできるサポート
愛犬が認知症になってしまったら、治すことはできるのかと心配になりますね。
残念ながら、犬の認知症は治すことができません。
しかし、認知症の進行を抑えたり、症状を緩和することはできます。
今回は、長年人間の介護に携わり現在は動物介護士で認知症の愛犬と暮らしていた私が、犬の認知症の治療法やサポート法を解説します。
■ 執筆者の保有資格 動物介護士、ペットフーディスト、ホリスティックケアカウンセラー 他 |
認知症はどんどん進行していく病気です。
気づいた時点で対処してあげることが重要なので、ぜひ参考にしてください。
犬の認知症の治療法は?治すのではなく対症療法が基本
人間の認知症に根本的な治療法がないように、犬の認知症も治すことはできません。
ただし認知症の進行を抑えたり、症状を緩和させるための治療は行うことができます。
また、非常に高齢な場合はあまり効果を期待できないと言われていますが、早期に治療を開始することで進行を抑えられる可能性は十分にあるため、気づいたときに治療を開始することが大切です。
ここでは、犬の認知症の治療法についてみていきましょう。
薬物療法
犬では、認知症そのものに対する薬を処方されることはほとんどありません。
症状に対する薬の処方となり、あくまでも対処療法です。
一般的には、症状や状態に合わせて以下のような薬が処方されます。
■ 処方される薬の例 ・睡眠導入剤 ・睡眠薬 ・精神安定剤 ・抗うつ剤 ・抗不安薬 ・鎮静剤 ・神経遮断薬 ・漢方薬(動物病院による) など |
ただ薬には副作用があり、獣医師の判断なしに安易に使用することはできません。
薬の副作用以外にも、心臓や腎臓への負担、認知症の進行などに影響を与えるケースがあるため、慎重に扱う必要があります。
実際、愛犬が一睡もせずフラフラになりながら旋回運動を行ったときには、体力を消耗させないためにと神経遮断薬である「アセプロマジン」を睡眠剤代わりに処方されました。
しかし、心臓に負担がかかるため2時間以上旋回運動が止まらないときしか飲ませないようにと獣医師から指示され、飲ませたときは悲鳴のような声をあげてそのまま倒れ込んで眠るという異様な事態が起きて怖くなったものです。
もちろん、獣医師から処方される薬は安全性の高いもので過剰に心配する必要はありませんが、処方された薬の副作用や影響、飲ませるタイミングについては、しっかり獣医師にご相談・ご確認ください。
サプリメントや療法食
動物病院によっては、サプリメントや療法食を処方することもあります。
主にオメガ3脂肪酸であるDHAやEPA、ビタミンE、レシチンの含有量が多いてんかん・認知症向けの療法食や、抗酸化物質の含まれるサプリメントが利用されます。
ただ、療法食は犬の食いつきがあまり良くないことも多く、サプリメントのほうが一般的といえます。
サプリメントは薬ではないため副作用の心配はありませんが、薬のようにすぐに効くわけではないため、継続的な摂取が必要です。
そもそも犬の認知症とは?認知症について知っておこう!
犬の認知症は10歳頃から発症し、1歳年を取るごとに認知症のリスクが52%増えるとされています。(※1)
実際、11歳~16歳の避妊・去勢済みの180匹の犬で認知症の発症率を調べた研究では、11~12歳の犬の28%、15~16歳の犬の68%に認知機能の障害がみられたという報告があります。(※2)
認知症(認知機能障害)にはさまざまな種類がありますが、認知症の犬の脳に人間のアルツハイマー型認知症と同じ病理学的変化が認められました。
そのため諸説ありますが、犬の認知症もアルツハイマー型認知症が多くを占めると考えられています。
■認知症の主な種類 アルツハイマー型認知症 …アミロイドβの蓄積によって脳の神経細胞を破壊し脳が委縮することで発症 血管性認知症 …脳の血流の流れが阻害され脳の一部が壊死することで発症 レビー小体型認知症 …レビー小体の蓄積によって脳の神経細胞を破壊することで発症 前頭側頭型認知症 …脳にピック球やTDP-43が溜まり脳の前頭葉や側頭葉が委縮することで発症 アルコール性認知症 …長期間にわたる多量のアルコール摂取により脳が委縮することで発症 神経原線維変化型老年期認知症 …タウたんぱく質の蓄積によって脳の神経細胞を破壊することで発症 嗜銀顆粒性認知症 …嗜銀顆粒だけが過剰に作られてしまうことで発症 |
アルツハイマー型認知症は、脳で生成されるタンパク質の一種「アミロイドβ」が排出されずに蓄積することで脳の神経細胞を破壊してしまうことで起こるとされています。
アミロイドβの産生には活性酸素が関わっていると考えられていますが、アミロイドβが蓄積するほど活性酸素の発生量が増えるという悪循環が起きてしまうのです。(※3)
脳の神経細胞の破壊の原因はほかにも、老化によって脳細胞に栄養がきちんと行き渡らなくなったり、活性酸素による酸化ストレスがあります。
犬とは大きく異なる人間のアルツハイマー型認知症の治療法
人間では近年、アミロイドβを減少させる薬が承認されました。
しかし、プラセボと比べて臨床的有効性は37%、まれに重篤な副作用が現れるとして現在のところ気軽に使用できる薬ではありません。
一般的には、神経細胞死の抑制や神経伝達物質の減少を防ぐ作用がある薬を使用して認知症の進行を抑えます。
また、神経細胞を再生する再生医療も注目されていますが、どれも犬の認知症の治療ではまだまだ取り入れられていないのが現状です。
犬の認知症の症状や予防については、以下の記事をご覧ください。
動物介護士が解説|犬の認知症の症状は?予防や対策方法 |
認知症に似た症状の病気もあるので注意!
愛犬に夜鳴きや徘徊、ぐるぐる回るといった症状がみられ、自己判断で認知症だと思っている場合は注意が必要です。
犬の認知症でみられる代表的な症状は、
- トイレを失敗するようになる
- できていたことができなくなる
- 夜鳴きをする
- 昼夜逆転している
- 徘徊(目的もなくウロウロ歩き回る)をする
- 旋回運動(ぐるぐる回る)をする
- 性格の変化
- 反応が薄くなる、表情の変化が少なくなる
などがありますが、これらの症状は認知症だけでなく、ほかの病気でも見られることがあります。
■ 認知症に似た症状を起こす病気の例
泌尿器疾患 / 関節疾患 / 脳炎 / 脳腫瘍 / 前庭疾患 / 水頭症 / 神経疾患 / 甲状腺機能低下症 / 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)/ 腎臓病 / 糖尿病 / 腫瘍 など |
どの病気も適切な治療が必要です。
もしも愛犬に認知症を疑うような症状がみられ、まだ動物病院を受診していないのであれば早めに獣医師にご相談ください。
老犬が「ぐるぐる回る」行動について、他の記事もぜひ参考にしてください⇩
動物介護士が解説|老犬がトイレを失敗するようになったら要注意!対処法も |
動物介護士が解説|老犬の夜鳴きに薬は効く?使用するリスクや対処法 |
動物介護士が解説|老犬が徘徊する理由は?考えられる原因や対策法 |
認知症になりやすい犬は?すべての犬が注意
認知症はすべての犬がなる可能性がありますが、一般的に以下のような特徴の犬がなりやすいといわれています。
■ 特に認知症になりやすいといわれている犬の特徴
・柴犬や秋田犬などの日本犬 |
日本国内の調査報告では、認知症の83%が日本犬(雑種も含む)で、症状も強く出る傾向にあるとされています。
しかし、なぜ日本犬に認知症が多いのかはわかっていません。
近年はトイ・プードルなども発症頭数が多いとされているため、認知症は犬種に関わらず注意が必要な病気です。
また大型犬は小型犬よりも加齢スピードが速いため、7~8歳ごろから注意してあげましょう。
犬の認知症の進行を抑えたり症状を緩和するためのサポート
愛犬が認知症になり、治療法もなく治すことができないと悲観している飼い主さんもいるのではないでしょうか。
たしかに認知症を治すことはできず個体差もありますが、飼い主さんのサポートによって進行を抑えたり症状を緩和させてあげることは可能です。
ここでは、私自身も愛犬に実践していたサポート方法をご紹介します。
① 1日15~30分程度の日光浴をさせてあげる
日光浴は、脳内伝達物質のひとつであるセロトニンの分泌やビタミンDの生成を促進してくれるため、1日15〜30分程度の日光浴をさせてあげましょう。
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれているように、ストレスの軽減や体内時計の調整、質の良い睡眠への誘導、睡眠リズムの調整などを行います。
また、ビタミンDは免疫機能の調整に欠かせないだけでなく、認知症の予防・改善にも大きく関係しています。(※6、7)
日光浴は散歩だけでなく、庭やベランダ、カーテンを開けた窓際でも可能なので、愛犬の状態や季節などに配慮し、負担とならない方法で日光浴をさせてあげましょう。
② 適度に脳に刺激を与えてあげる
刺激が少ないと脳細胞が減少してしまうので、認知症の進行を早めてしまうことに繋がります。
脳細胞を活性化させるためにも、適度な刺激を与えてあげましょう。
■ 犬の脳に刺激を与える方法 ・散歩に連れ出してあげる ・散歩コースの変更 ・ドッグランや公園でほかの犬と触れ合わせてあげる ・ノーズワーク(嗅覚を使って食べ物を探すゲーム) ・飼い主さんとのかくれんぼやボール遊び など |
反応してくれることが少ない場合では一緒に遊ぶことも難しくなってきますが、散歩に連れ出してあげることは有効です。
散歩は外の空気や匂い、音、景色など、さまざまなものが刺激となります。
また運動は神経栄養因子の分泌量を増やして、神経細胞の発生や成長、修復をサポートしてくれます。
散歩や室内での遊びなどは運動を兼ねることができるので、ぜひ取り入れましょう。
自力で歩くことが難しい犬では運動は難しいと思いますが、外の刺激を与えてあげるためにも抱っこやペットカートなどを使用して連れ出してあげてくださいね。
神経栄養因子とは?
神経細胞の生存、発生、修復、シナプスの形成・機能調整などに必要とされるたんぱく質物質で、アルツハイマー型認知症では神経栄養因子が減少しているという報告もある |
③ スキンシップを取る
スキンシップには、セロトニンの分泌によるストレス軽減や適度な刺激などさまざまなメリットがあるため、例え愛犬の反応が薄い・ない状態でも、積極的に話しかけたり触ってあげましょう。
認知症の進行を早めてしまう要因には、刺激不足や運動不足だけでなく、ストレスもあります。
認知症は不安感が強くなる病気でもあるため、安心させてあげるという意味でも有効です。
④ 脳に必要な栄養を補ってあげる
認知症は活性酸素によるアミロイドβの産生や酸化ストレスなどが原因であることや、神経栄養因子の減少ということに対するサポートとして、脳に必要な栄養を補ってあげましょう。
活性酸素は体内で重要な役割を担うものではありますが、増えすぎてしまうことは認知症だけでなく体のさまざまな機能に悪影響を与えます。
そのため、活性酸素から体を守る成分や、神経栄養因子のサポートをしてくれる成分などが配合されたサプリメントがおすすめです。
■ 認知症の犬が摂取したい成分
ポリフェノール(アントシアニン、グネチンCなど) |
私は認知症の愛犬にさまざまなサプリメントを試しましたが、特にグネチンCとバングレンが配合されたものが体質に合っていたようで18歳と高齢であるにも関わらずとても良かったです。
グネチンCもバングレンも近年注目されており、バングレンは脳の神経幹細胞に働きかけて神経細胞の新生(分化)を促し、新規細胞の成長や維持に深く関与すると考えられている神経栄養因子のような働きをすることがさまざまな試験から明らかになった成分です。
犬の認知症向けのサプリメントは種類が多く選ぶのも大変ですが、愛犬の体質に合ったものを見つけることができれば、認知症のサポートに役立てることができるでしょう。
ただ、成分含有量が少なかったりエビデンスがないものも多くあるため、動物病院でも販売されているような製品を選ぶことをおすすめします。
まとめ
犬の認知症は治すことはできませんが、適切な治療やサポートを行うことで進行を抑えたり症状を緩和してあげることは可能です。
私も、認知症になった愛犬が反応してくれなくなったり、笑顔が見られなくなって寂しい気持ちになったことがあります。
それまでできていたことがどんどんできなくなっていくのが認知症。
しかし愛犬がどんな状態であっても、お世話させてもらえることは幸せなことなのではないでしょうか。
また、サポートすることで再びできるようになることもあり、小さくてもそんな変化をみられたときは喜びもひとしおです。
おひとりで悩まず、かかりつけ動物病院の獣医師や愛玩動物看護師に相談しながら、愛犬が快適に過ごせるようにサポートしてあげましょう。
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<参考文献>
※1:scientific reports「Evaluation of cognitive function in the Dog Aging Project: associations with baseline canine characteristics」
※2:National Library of Medicine「Prevalence of behavioral changes associated with age-related cognitive impairment in dogs」
※3:日本ヒューマンケア科学会誌「「生活習慣病・活性酸素・栄養」シリーズ(1)」
※4:petMD「Dog Dementia: Symptoms, Causes, Treatment and Life Expectancy」
※5:動物臨床医学「犬と猫の高齢性認知機能不全」
※6:The American Journal of Clinical Nutrition「The associations of serum vitamin D status and vitamin D supplements use with all-cause dementia, Alzheimer’s disease, and vascular dementia: a UK Biobank based prospective cohort study」
※7:National Library of Medicine「Effects of vitamin D supplementation on cognitive function and blood Aβ-related biomarkers in older adults with Alzheimer’s disease: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial」